「環境を変えられる」のは上の人である。

【Y理論の原点】〜創意工夫、これ道〜
1986.2.22、MG(マネジメントゲーム)10周年記念式典での元ソニー:小林茂氏の
講演再録(株式会社西研究所:2016.2.18 発行)を読みました。

小林茂さんとは後に「奇跡の工場」と称されたソニー厚木工場の工場長を務められた方。
前職は印刷屋さんでエレクトロニクスのことは全くの素人にも関わらず、当時問題児扱いされていた厚木工場の立て直しを井深大さんにお願いされた方。

赴任したのが1961年なので約60年前の取り組みであるが、現代の経営にも通用するどころか普遍、いやそれ以上にとっても大切な思想と具体例を提示されていた。

以下、簡単にまとめると

■「創意工夫」の「創意」の意味とは、
「意を創る、意を生み出す、意を持つこと」
別の言い方では「志を立てる」こと。
俗っぽくいうと「やる気を持つ」に似ている。

AIやロボットが発達することを嘆く人もいるが、
彼らが絶対できないのが「創意」
そう考えると「創意」することが人間らしくであり、ここから始まる。

■人間がちゃんとしてゆくには環境と条件が必要。
環境を変えられるのは上の人の役割、トップの責任
「人間の目とはヒラメの目」
つまり上しかみてなく、下の人のことは見ているようで見ていない。
逆に下の人は、上の人の行動を見てないようでみている。

だから、包み隠さずありのままを話すことは大切。
相手を人間扱いしていることになる。

工場では下の位置にある人を人間扱いしていないように感じられた。
具体例として示されたのが「掃除のおばちゃん」

■掃除のおばちゃん
新入社員には教育するが掃除のおばちゃんに対しては
「ここをこうしなさい」と命令する。
そして見回って「これはダメでこうしなさい。」と言って監督する。
「ああしろ、こうしろ」と言われたら創意工夫する余地はない。
キツイ言い方すれば奴隷扱いである。

そこで、このやり方を変えることにした。
おばさん扱いせずに「自分のお母さんが働きにきている」と思え!と。

■説教でなくて状況報告
自分はこういうことで困っているんだということを話す。
エレクトロニクスのことはわかるが、掃除のことは誰もわからない。
(一方、掃除のおばちゃんは電子技術や工場生産のことはわからない)
工場スタッフ中心だった月例会におばちゃんも参加してもらうようにした。
どういうつながりがあるかはわからないが、これをちゃんとやらんといかんとの感じがどこかで出てくる。

そして、
掃除係長を廃止して70人くらいの掃除のおばちゃんを10人くらいの小集団として、
リーダーを決めて担当するエリア別にグループを設けた。

■主婦は経営者
その上で二つのお願いをした。
①お客さん(第一工場担当なら第一工場)が掃除に求めていることを掴んで、
勉強して、お客さんに喜んでもらうようにすること。
②できるだけ安いコストでやること。

そうすると、おばちゃんたちの目つきが変わってきた。
頭でわかったのでなく、心でわかったのがわかった。

おばちゃんたちは家で家族に喜んでもらうことを、家計をやりくりしながらやっている。

じゃあ、後は任せたよ!では、、流石に無理なので、
もうちょっと手引きしないといけない。(←ここはポイントですね。)

第一工場の責任者に、今までの経緯を伝えて、このおばちゃんたちに
「どういう掃除をしたらいいかを言ってくれ」と言った。
管理職の人たちはトランジスタのことはわかるが掃除のことはわからないので、
課長も係長も教えられない。

わからない人にものを教えると相手は研究的になる。
彼らは仕方ないので、この工場ではどんなものを作って、どういう状態になっているか工場を案内してみせた。そして、(品質管理の)顕微鏡を覗かせた。
感動する。
こんな細かい世界なのだと気がつき、この職場の掃除のポイントは「塵」であることを
自分達で気がついた。
とたんにおばちゃんが床をこすり始めて、「ああ〜汚れている」床を歩くと汚れが飛ぶと気がつく。
目に見えないところも掃除しないといけないと認識した。

教えるのではない。気付かせるのである。
自分で気づくように仕向けてゆく。

■研究会
グループの研究発表会を月に1回行うようにした。
そして各課のトップ会議におばちゃんのリーダーも参加させるようにした。
英語での会話が多いからわかるわけないが、なんとなく大変なことはわかる。
母性本能がくすぐられるから応援団になってくる。
応援するといっても掃除以外に応援しようがないが研究する。
仕事そのものが研究である。

■人間が犬にかみついた?
ある日、トイレを掃除してたおばちゃんが女子社員に声かけした。
「最近、トランジスタのできは良くなってきている? 頑張ってね!」
「この頑張ってね」が自然に口について出てきたものだった。
工場長が「頑張ってね」というのと全然違う。

この「人間が犬にかみついたような」話はパーッと工場中に広まった。

また、
「こんな幸せで楽しい、友達もできるし、勉強もできる職場はない」と評判となり、
そうこうするうちに、工場の偉いさんの奥さんが掃除のおばちゃんを志願するようになった。

■まとめ
この掃除のおばちゃんへの取り組み(成功事例)を工場組織に対しても適用した。
・次の工程がお客さまであること。
・グループ制にして任せることで創意工夫できるようにした。
・(自分たちで)発見する面白さ。
・部分最適にならないように全体を意識させる。
 システムをつなげているのは人間。
 ひとつの目標に向かわせないと足の引っ張り合い、官僚組織になる。
 「なんとしてでもやらねばならない」とのいう人間の阿吽の呼吸が大事。

厚木工場の有名な行事になったのが年1回の「研究発表会」
研究部門、生産部門はもちろん、掃除のおばちゃん、守衛さんもやる。
井深さんも皆と混ざって固い椅子で座って聞きながら、
「そんなこと、いっちゃっていいのかよ!」と野次りながら聞く。

本当に楽しかった。

面白くなければ人は集まってこない。
「環境を変えられる」のは上の人である。

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